大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(行コ)91号 判決 1981年2月25日

控訴人

吉永多賀誠

被控訴人

麹町税務署長

山下文義

右指定代理人

根本真

外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し昭和五三年三月一一日付でした控訴人の昭和四九年分所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠関係は、次のとおり付加するほかは、原判決の事実欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴人は、

一  所得税法二七条二項の規定によれば、必要経費を投ずることなく得られる所得は事業所得でないことは明らかである。

二  弁護士の本来の業務内容は弁護士法三条に定められているところのものであるが、弁護士の会社との間の顧問契約においては、一個の契約が継続的に存続し、その報酬は定期的に定額が支払われるから、顧問契約によつて弁護士が行う業務は右の本来の業務とは別異のものである。右顧問契約において、控訴人は自己の労働力を顧問会社に給付することを約したものであり、その労働力の給付につき一定時間の定めがないからとて、右契約に基づく顧問料が給与所得の性質を失うものではない。

三  事業所得と給与所得のいずれにあたるかを判定するにあたつては、具体的事案における業務遂行ないし労務提供の態様を総合してなすべきものではなく、金銭支払者とその受取人との金銭受授の法律関係により所得税法の各種所得の定めに照らしてなすべきである。

と陳述し、

被控訴代理人は、

控訴人の右一の主張に対し、控訴人は所得税法二七条二項の規定を根拠に、なんらの必要経費を要しない収入は事業所得の収入でないと主張するが、同条二項は同条一項の事業所得の定義を受けてその事業所得の金額の計算方法を定めただけの規定であることが明らかであり、控訴人の右主張は所得税法の規定を曲解するものである。

同二の主張に対し、控訴人と各顧問会社との顧問契約が雇用契約であることは争う。

同三の主張に対し、事業所得と給与所得のいずれにあたるかを判定する基準は、所得の生ずる業務の遂行ないし労務の提供が自己の計算と危険において独立的になされているか、それとも自己の計算と危険によらずに対価支払者の時間的、場所的支配に属して非独立的になされているかにある。そして、労務提供の独立性、非独立性といつても、それは相対的な程度の差が存するにすぎず、個々の具体的事実を総合してきめるほかないものであり、右基準に基づいて判断すれば、控訴人の顧問料は事業所得に属すると認めるべきである。

と陳述した。

理由

当裁判所は、控訴人の本訴請求は理由がないと判断するが、その理由の詳細は、次のとおり付加するほかは、原判決の理由欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一原判決一二枚目表三行目及び同九行目の各「対価支払者」の前に「一般に」を加え、同裏一行目の「労務の提供」の次に「及び所得」を加え、同一四枚目表七行目の「したがつて」の前に「本件各顧問会社は、顧問料の支払にあたつて、これを弁護士業務に関する報酬または料金として所得税法二〇四条一項二号及び二〇五条一号の規定によつて所得税の源泉徴収をする反面、健康保険料などの社会保険料を本件顧問料の支払に際して徴収せず、控訴人も同法一九四条一項に規定する給与所得者の扶養控除等申告書を顧問会社に提出しなかつたものである(これらは前記のとおり争いない事実である。)」を加える。

二控訴人主張の事実欄記載一について判断する。所得税法二七条二項は同条一項の事業所得の定義を受けてその事業所得の金額の計算方法を定めただけの規定であることは明らかである。そして、前記(本判決の引用する原判決の認定判断)のとおり控訴人が顧問契約に基づき本件各顧問会社に対し法律家として意見を述べる仕事は控訴人の営む事業である弁護士業務の一環をなすものであるから、その事業全体の中で必要経費を考えるべきものであることは明らかであり、個々の顧問会社との間の顧問契約に基づく右仕事にあたつてそれぞれ必要経費を要したかは本件顧問料が事業所得にあたるかを考えるにつき必ずしも問題となるものではない。従つて、控訴人のこの主張は理由がない。

そうすれば、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当で、控訴人の控訴は理由がないから、これを棄却すべきである。そこで、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(鈴木重信 糟谷忠男 渡辺剛男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例